相続 遺言の取扱い

日本の一応体系的な「新自由主義改革」は、81年に正式発足した第2臨時行政調査会による「小さな政府」「増税なき財政再建」などの掛け声のもとで進められた。 それは具体的には老人医療費の有料化、高額医療費の自己負担限度額の引き上げ、公務員の賃金抑制・定員削減その他、生活に直結した福祉関連財源の絞り込みや、国民負担の増加を「活力ある福祉社会の実現」の美名のもとに追求した。

「福祉国家」と「福祉社会」とは表現が似ていて紛らわしいが、前者が福祉に国家が責任をもつ体制であるのに対して、後者は国民の「自立・自助」(セルフ・ヘルプ)が想定され国家責任を免責する体制である。 両者は同じ資本主義のもとでの政治・社会「体制」ではあるが、非常に異なった理念と仕組みの政治手法にもとづく。
むろん、「福祉国家」と呼ばれるものも、資本主義のもとでの、福祉重視を手段とした「危機管理」の一形態であり、さまざまな限界をもち、決してわれわれの最終目標たりえないものである。 民営化による85年のN株式会社(J)、N株式会社(N)や87年の7つの旅客・貨物鉄道会社(J)の発足も、周知のように臨調行革路線の所産である。
このように70年代半ばから始まった「新自由主義」のうねりが80年代になって顕著となり、体系的・系統的な国家政策として財界新戦略「新自由主義改革」が展開されるようになった。 これに82年に発足した全民労協を中心に、労働戦線の右よりの再編が呼応したという構図を見落とすわけにはゆかない。
また、国鉄の分割・民営化の主要なねらいの一つに、それをテコに日本の労働組合を弱体化させる戦略が隠されていたことは、いまや広く知られているところである。 85年のG5(プラザ合意)により、80年代の後半から、「異常円高」の時代に突入した。
そのもとで財界は、日本企業の「国際競争力の低下」を過度に強調し、「高コスト構造の是正」が喫緊の課題だとして、これを財界新戦略のイデオロギー攻勢の中心にすえた。 同時に、生産拠点の海外移転とともに、「事業の再構築」をおこない、その不可欠な一環だとして一雇用・賃金・労働時間の全面的な見直しに入った。
すなわち雇用の流動化・多様化、賃金の脱年功化・職能給化、労働時間の変形化・弾力化などがそれであり、これを労働者派遣法の制定、労働基準法の「改正」といった国家的支援と一体で強行した。 その共通のねらいが労働力利用の格段の低廉化と効率化にあったことを強調しておく。
この80年代後半では、異常円高による名目賃金の国際比較上の「急騰」を理由に、財界が「国際競争力強化」が至上命令だとばかりに、「高コスト構造の是正・解消」のアクションを強め、これが「新自由主義改革」「構造改革」(労働分野も含めた規制緩和)と一体ですすめられた。 つまり、産業・企業・事業所など、既存の経済システムを「コストと効率」(国際競争力)のモノサシで再編するというもので、この財界新戦略を規制緩和で国家が支援するという構図である。

端的にそれは、成長が見込めるとされた産業・企業・事業所は国の各種の支援も動員して伸ばすが、それ以外は整理・淘汰していくというもので「選別を市場に委ねる」という思想に立脚したものだ。 ただし、これは多分に建前であって、政治献金による「政治力」が働き、「競争力」とは別の「隠されたモノサシ」が選別を少なからず支配したという側面も見逃すわけにはゆかない。
とにかく80年代の後半から財界は、異常円高・「高コスト構造」を口実に「国際競争力」論を喧伝し、アメリカに押しつけられた円高基調は律儀に守りながら「高コスト構造」を解消するという新課題。 新しいハードルを自らに課した。
この課題をクリアする手法が規制緩和をテコにあらゆる分野での競争原理・市場原理の徹底であり、そのためのイデオロギー攻撃として「新自由主義」思想をつゆ払いとして先行普及きせ徹底させるというものであった。 86年の「Mリポート」もヨ国際的に開かれた日本」に向けて「原則自由、例外制限」という視点に立ち、市場原理を基本とする施策を行う。
そのため、市場アクセスの一層の改善と規制緩和の徹底的推進を図る」としている。 このリポートは、欧米諸国からのジャパン・バッシングの強まりのなかで作成され、またN首相の渡米の手土産という役割もあって、一応「節度ある企業行動」にも言及し、「シェア拡大第一主義に傾きがちな企業行動が摩擦を発生させる可能性が大きいこと等にかんがみ、わが国企業においても国際的責任を自覚した行動が望まれる」とも述べられている。
だが、これが外交辞令であったことはその後のすさまじい企業行動が示している。 そのもとで、中小企業倒産や過労死が増大するなど矛盾もいっそう拡大した。
このころを振り返って、のちSのM氏が「文芸春秋」(92年2月号)に「日本的経営が危ない」という「反省文」を載せているが、そこでも指摘されているように、日本企業の身勝手な「ルール」はヨーロッパ企業のルールとは著しく異なっていたのである。 盛田氏はルールが違うというが、この国では企業行動が野放し状態であり「ルールなき資本主義」であることが、とくにサービス残業などに顕著にあらわれており、その後事態はいっそう悪化している。
ほとんど弱肉強食一色の社会になっている。 その背景に90年代からの不況の長期化・経済のグローバル化があったことは確かであるが、悲劇の大半は、これを口実に強行された「構造改革」という名の「新自由主義改革」によって引き起こされた。
項を改めて述べよう。 「構造改革」という言葉が財界・政府の公式文書で使われ始めたのは、管見するかぎり93年からである(「産業構造審議会基本問題小委員会中間報告」)。
それまでは、たとえばMリポートのように「構造改革」という表現を避けて「構造調整」が使われていた。 陣営の革命路線をめぐる一潮流の主張(「社会主義用語」)であったためである。

91年にかけてのソ連はじめ東欧「社会主義」の崩壊が、この「社会主義用語」の使用を資本主義陣営にもたらした、とこういう経過があって93年に、通商産業省の産業政策局が「21世紀への構造改革」という文書を公にしている(前掲小委員会の「中間報告」の冊子名。 以下「中間報告」と記す)。
まず、それをみておこう。 なにをもって「構造問題」と考えているのか。
第一に「マクロ面では」ということで、つぎのように述べられている。 「わが国の大幅な経常収支黒字に対する諸外国からの批判が強まるとともに、これらに起因する円高の行き過ぎ等を背景に製造拠点の海外移転が急速に進展し、国内産業の空洞化が懸念されている。
一方、本格的な高齢化社会の到来を目前に控え、社会資本の整備水準や居住水準の低さが国民生活の豊かさの実現を阻害するとともに、将来を担う新規産業の発展を困難にしている」。 第2につぎのように指摘されている。
「様々な政府規制や競争制限的な商慣行の存在、これまでの仕組みの行き詰まり・制度疲労が企業家精神に富むダイナミックな事業活動の展開やイノベーティブな新規産業の伸長の阻害、対日アクセスの困難さをもたらすとともに、低廉かつ多様な商品・サービスに対する消費者の選択肢を狭めるなど国民生活の豊かさの実現を阻害している」。

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